レビュー:枕魚
panpanyaの『枕魚』を読んだ。
panpanyaはコミティア出身の漫画家で今まで同人誌を書いてきたんだけど、2年前?あたりに単行本が商業デビューして結構注目を集めた。
『足摺り水族館』でデビュー、『蟹に誘われて』を去年webで連載してたんだっけ。
で、話を『枕魚』に戻そ。
単行本の帯が秀逸で「どこかで見た/どこにもない風景」
この文言にpanpanyaの魅力が集約されている。
どういう意味かというと、この作者は心象風景を描写するのが凄くうまい。実際にはありえないけど、心の中というか、脳内にあるような風景。
例えば、このシーン。
薄汚れた看板、込み合った商店街。忘れ去られた、現代から切り離された風景で、どこか懐かしく無いですか?
僕は小学生の頃、学区外の商店街にこっそり行った事があって、そのときの思い出の風景にめちゃくちゃ近いな、と感じました。親には黙って遠出して、そこでは世界の大半の物が手に入るような感じで、そんな高揚。
あと、におい。絵からも感じ取れる懐かしいにおいがある。例えば地下のシーンだと、冷えたコンクリートと排気ガスが混ざったような、地下らしいにおいがある。他には人ごみのにおいや雑居ビルや路地裏のにおい。そんなものまで紙面を通り越して迫ってくる。
そして、その魅力を最大限工夫するようにか、主人公の造形は非常に簡素で淡い線によって描かれている。だから、書き込みの多い背景がぐっと引き立つ。主人公の消え入りそうな薄さは読者を夢見心地にさせる。
ストーリーも荒唐無稽というか、良い意味で意味が無い。そこがまた夢の中や記憶の中っぽい。感覚で紡ぎ出された世界だから考えたら負け。そんな世界を自由にトリップ。
今まで無意識の領域に溜め込んできた風景。この機会にちらっと覗いてみては。