クソザコナメクジ

Twitterの延長

レビュー:オデッセイ

先日2月4日に封切られた映画オデッセイを観てきたのでレビューをしようと思います。原作「火星の人」を先に読んでいた事もあって、いちいち引き合いに出すかもしれませんが、何卒ご容赦を。

あらすじ

火星での探査任務中、本作の主人公である宇宙飛行士のマーク・ワトニーらクルーは大嵐に見舞われる。突如、暴風で飛んできたアンテナがワトニーに突き刺さり、クルー達は彼が死亡したと判断。遺体を残して宇宙船ヘルメス号に乗り込み退避。だが、死んだと思われていたワトニーは、アンテナが突き刺さった事による出血のおかげで宇宙服の減圧を免れ生存していた! しかし地球からの援助は見込めず、次ミッションである4年後まで何とか火星で一人生き延びなければならない。残った水・空気・排泄物にわずかな食糧、植物学とエンジニアリングの知識、そしてなにより持前のポジティブで明るい気質を以てして彼は火星の厳しい環境をサバイバルしていく。

原作について

この映画の原作である「火星の人」に関して幾つかの情報を。実はこの小説、もともとは著者のHPで無料公開されていたみたいなんですけど、2011年にKindleで販売され始め、3か月であっという間に3万5000ダウンロードを達成するという異例の売り上げを見せて話題になった小説です。で、著者のHPで無料公開されていたのもあり、読者からのフィードバックを受けてSFとしての正確性を向上させていったみたいです。(まぁ火星は大気圧が低くて機体が損傷するような激しい嵐が発生する事は無いみたいですけど。)

 幾つかの点で不正確な部分はあるものの、NASAの人を雇って科学考証してるので、ヒドラジンから水素を抽出して酸素と一緒にして燃やし水を作るとか、放射線同位体熱電気転換機を使ってロバー内の温度を保つとか、実際に可能な方法で描かれている、らしい。このような科学考証がしっかりなされているのも魅力の一つです。

(参照:オデッセイ (映画) - Wikipedia)

火星の人

火星の人

 
 映画の感想

そして本題の、映画の感想なんですけど、ハッキリ言って原作の方が面白い。これは個人的にそう感じているだけなのかもしれないんですけど、作品の焦点として、今回マーケティングでも大々的に押し出されている「一人の宇宙飛行士の為に皆が、世界が、一致団結する」的な側面より、僕は宇宙版ロビンソンクルーソーみたいな「限界状態でも建設的な思考をし、順に問題解決をする」部分に強い魅力を感じていて、その部分が凄く薄められているように感じたのです。

初めにネガティブなポイントを述べておくと、まず配役が微妙。やっぱりマッドデイモンはボーンシリーズのイメージが強く残っていて、原作のワトニーのイメージと合わないんですよね。小説だと「イェイ!」とか「みーっけ!」とか言っちゃう陽気なナードの雰囲気があって、しかも高い社会性を兼ね備えているとも言及されてる。それを考えると、映画版は再現が微妙だったなと。サバイバルにおいてワトニーのポジティブな姿勢・思考がサバイバルの成功の大きな要因となっているのを考えると、もうちょっと忠実に演技して欲しかった。

次にSF考証。原作ではキッチリ描かれていた部分が映画ではテンポを考慮してか大きく省かれたり改変されたりしていて、割とガバガバ。火星の重力に関する映像は不要とは言えバッサリと省くと鑑賞側としては終始違和感が付きまとう。それに、宇宙服に穴が開いた時もとりあえずガムテープ張るか、みたいな感じで。原作だと何処に穴が開いたのか自分の髪の毛を燃やした煙の揺れで見つけ、他の宇宙服と樹脂を使って穴を埋め切り抜けていました。そういうのを考えると、こう、映画でそこ省略しちゃダメじゃない?みたいな部分が多かった。つーか、大体の問題をガムテープとビニールで解決しすぎなんだよなぁ…

そして謎のミュージカルパート、これがまたくどい。監督リドリースコットはエイリアンやブレードランナーの様な見応えあるSFを産み出してるし、今回のSFも期待できると思っていたけど、今回は演出にノイズが多かった気がする。映画を鑑賞する前に、ゴールデングローブ賞でミュージカル/コメディ部門の作品賞を受賞してるのを知って「え?」ってなってたけど、確かに作中で執拗に70年代ディスコの曲が流されてて。まぁそれは原作通りなんですけど何度も何度も流れるんですよね。3・4回くらい同じ演出が繰り返されて流石に胃もたれしました。

 

 *どちらも名作、ブレードランナーは原作の「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」もおすすめ。

アンドロイドは電気羊の夢を見るか? (ハヤカワ文庫 SF (229))

アンドロイドは電気羊の夢を見るか? (ハヤカワ文庫 SF (229))

 

 さて、ここまでマイナスポイントを述べましたが、それでも原作の魅力を100とすると、映画では80くらいは再現されていて、その部分だけでも十分に鑑賞するに値する映画にはなっています。

まずは主人公の前向きで建設的な思考。これは原作小説の大きな魅力ですが、映画でもある程度再現されていたと思います。サバイバルで、まず食糧が足りない→作物を作ろう→水が足りない→酸素と水素を燃やして作ろう→水素が無い→燃料から抽出しよう、みたいな問題解決を行っていくのは観てて面白いし、必ずしも成功ばかりでなく、試行錯誤していく過程も楽しめる。例えば酸素と水素を燃やすにしても初めは自分の排出する酸素量を計算に入れて無くて、部屋が吹き飛ぶとか、めちゃくちゃ笑えました。サバイバルの先輩ロビンソンクルーソーは「経済人」≪ホモ・エコノミクス≫なんて言われたりしますけど、それならワトニーは「科学人」≪ホモ・スキエンティア≫と言ったところでしょうか。

そしてテンポの良さ。さっきはミュージカルパートは不要とか断言しましたけど、まぁ何度も挿入する必要は無かった、程度の意味合いです。合間合間にミュージカルを挟みカットを多用して冗長な部分を削ることでストーリーラインをシンプル・スリムに見せているのは非常に良かったと思います。原作ファンは多少物足りなく感じるかもしれませんが、初見の人に目線を合わせた作りになっていて、「今何やってんの?」状態にならないような工夫がされていました。

あ、あと中盤で中国がNASAに協力してくるシークエンスに対して、一部では「中華資本によるプロパガンダ映画」とか「こんな綺麗な中国は存在しない」とか叩かれていますけど、これ全く原作通りなんですよね。宇宙映画と言えばアメリカとソ連の対立、みたいな冷戦脳からそろそろ脱却する時期な気もします。一応中国も月面着陸成功してますし、宇宙開発に力入れてる国ですよ。そしてあの中国すらも一人の宇宙飛行士を救出する為に救いの手を差し出す、世界が一致団結する、というピースでハッピーな内容なんですから、実際の政治を持ち出してどうこう言うのはナンセンスでしょう。

 

長々と書きましたが、初めに言ったとおり原作の方が面白いです。ただ映画単体で見ても他の映画と比べると十分に完成されている映画ですので、お金を出して観に行く価値はあると思います。

では、今日はこの辺で。